アメリカでは近年、一部の政治家からNATO(北大西洋条約機構)離脱の主張が出ています。
その背景にはトランプ前大統領の姿勢があります。
トランプ氏は前大統領に在任中から同盟国の防衛費負担の不足を批判し、「NATO加盟国が分担金を払わなければロシアから守らない」とまで警告していました。2018年には私的に「NATOからの離脱」を検討していると報じられ、政権高官らが懸念する事態になりました。
これを受けて、アメリカの市場予測サイト「Polymarket」では、アメリカのNATO離脱をめぐる予測が立てられています。
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出典:Polymarket — PolymarketにおけるアメリカのNATO脱退のオッズ推移
グラフを見ると、2025年3月現在、アメリカのNATO離脱の可能性は約12%ほどで推移していることがわかります。
この記事では、アメリカのNATO離脱の背景や最新のSNSでの議論、そしてその実現可能性について詳しく解説します。
- トランプ大統領を始めとるうアメリカの一部の政治家がNATO離脱を主張している
- 議会の法律措置や世論の支持により、現実的な離脱可能性は低いものの、政治情勢次第で将来的な議論の火種になる可能性がある
- 万一離脱した場合、軍事・安全保障、経済、同盟国との信頼関係に甚大な影響を与えると懸念されている
背景と最新の議論
- 前任期におけるトランプ大統領の同盟国防衛費への不満が離脱論の原点となっている
- 議会は法律で大統領の一存での離脱を防ぐ「安全装置」を整備し、離脱の実現を難しくしている
アメリカ政界におけるNATO離脱論の背景には、トランプ前大統領の姿勢が大きく影響しています。トランプ氏は在任中から、NATO加盟国の防衛費負担の不均衡を繰り返し批判してきました。
こうした動きを受け、議会ではNATO離脱を阻止する超党派の取り組みが進められました。2023年の国防権限法(NDAA)には「大統領がNATOを離脱するには上院の3分の2の同意または議会の法律が必要」とする条項が盛り込まれ、バイデン大統領も署名しています。
これはトランプ氏の復帰に備えた「安全装置」と位置付けられ、議会は「NATOを守った。大統領が勝手に脱退しようとすれば法廷で打ち負かす」と表明しました。
一方で、共和党の一部保守強硬派はNATO脱退を推進しています。例えば下院議員のマージョリー・テイラー・グリーン氏は2023年7月の国防権限法修正案で「大統領にNATOからの離脱を命じる」条項を提案し、「欧州諸国、とりわけドイツの防衛費負担が低すぎ、米国が不当に費用を負担している」と批判しました。
共和党上院議員マイク・リー氏もウクライナ戦争をめぐり「NATOは米国抜きで進んでいるなら、米国もNATOから離れるべき時だ」とX(旧Twitter)に投稿し、「アメリカのNATO離脱運動を何と呼ぶべきか?『アメリExit』か『NATExit』か」と冗談まじりに呼びかけました。
SNS上の主な議論
- 保守派政治家や著名実業家(イーロン・マスク)がSNS上で離脱支持の発言を行い、議論が拡大している
- 賛否両論が激しく、支持派は財政負担軽減を、反対派は同盟国との信頼関係の損失や安全保障上のリスクを指摘している
X(旧Twitter)やその他のSNSでは、NATO離脱を巡って賛否両論の議論が活発です。主に一部の保守系政治家や著名実業家が離脱論を後押ししているのが特徴です。
上院議員マイク・リー氏はX上で離脱運動の名称として「#AmerExit」や「#NATExit」を提案し、下院議員トーマス・マッシー氏も「NATOは時代遅れ」と投稿するなど、政界右派の発信が目立ちます。
特に注目を集めたのは、テスラCEOのイーロン・マスク氏の発言です。マスク氏は他者の「国連とNATOから離脱すべき時」という投稿に対し「I agree(賛成だ)」と返信し、米国のNATO離脱支持を表明しました。現在Xを所有するマスク氏の一言は瞬く間に拡散し、オンライン上で激しい論争を巻き起こしました。
SNS上の反応は支持派と反対派で真っ二つに分かれています。支持派(主に「アメリカ第一主義」を掲げる保守層やマスク氏のフォロワー)は「米国の財政負担が減り、自国の課題に集中できる」「多国間同盟よりも自主独立の外交を」といった主張で賛同しています。
実際、マスク氏の投稿にも「米国の税金で他国防衛するのはもうやめるべきだ」といった一般ユーザーの声が多数寄せられました。
一方、反対派(外交・安全保障の専門家、同盟支持派、市民など)は「こんなことをすれば米国は外交的に孤立し、同盟国との信頼関係が崩れる」「ロシアや中国を利する愚策だ」と強く批判しています。
例えばラトビアのリンケービッチ大統領はX上でマスク氏に直接反論し、「NATOが創設され存在する理由はロシアなど自由世界の敵対者だ」と指摘しました。
このように、政治家から一般市民、さらには同盟国首脳まで巻き込んだSNS上の議論はヒートアップしており、「#NATO脱退」が一時トレンド入りする場面も見られました。
脱退の可能性は何パーセント?
アメリカが実際にNATOを脱退する可能性は現時点では高くありませんが、政治情勢次第で将来排除できないとの見方もあります。
市場予測サイト「Polymarket」によると、米国が6月30日までにNATOを離脱する可能性は2025年3月時点で約12%と予測されています。
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出典:Polymarket — PolymarketにおけるアメリカのNATO脱退のオッズ推移
これは前元大統領の元国家安全保障担当補佐官であるジョン・ボルトン氏の発言を受けて上昇したものの、依然として「長期的な賭け」という評価にとどまっています。
制度面では、2023年の法律により大統領の一存で脱退することは難しくなっています。仮に大統領が離脱を宣言しても、議会の同意なく進めれば直ちに法廷闘争となり、最終的には憲法論争に発展するでしょう。
また、NATO条約第13条では離脱には通告から1年の猶予期間が必要と定められており(米国が離脱通告書の受領国)、実務的にも時間がかかります。
専門家の見解によれば、議会の策はあくまで「万全ではなく、大統領が法律を無視して強行すれば憲法問題になる」というリスクも存在します。万一強権的な大統領が出れば憲法論争に発展し、混乱が予想されます。
NATO離脱を推進する要因としては、以下が挙げられます:
- 「アメリカ第一主義」的イデオロギーの台頭
- ウクライナ支援に消極的な世論の一部
- 財政赤字拡大への懸念から海外安全保障負担を減らしたい思惑
一方、脱退を阻止する要因は極めて強力です:
- 議会・与野党の大多数がNATO残留支持
- 法律による縛りの存在
- 米軍・国防総省の強い支持
- 世論調査でのNATO支持の根強さ
これらの要因から、専門家の多くは「現実的に米国がNATOを脱退する可能性は極めて低い」と見ています。ただし、2024年大統領選以降の政治動向によっては、離脱論が現実味を帯びる可能性もゼロではありません。
もしアメリカがNATO脱退したらどんな影響がある?
- 市場予測サイト「Polymarket」によれば、2025年3月時点で約12%の可能性とされている
- 議会の法的制約や国民・与野党の圧倒的支持が離脱を困難にしているとの見方が主流
万一アメリカがNATOを脱退した場合、その影響は軍事・安全保障から経済、外交に至るまで甚大です。
例えば、主に以下の点について、特に大きな懸念がなされています。
- 軍事・安全保障への影響
- 経済への影響
- NATO諸国との関係への影響
- ロシアや中国との関係への影響
それぞれについて、詳しく解説します。
軍事・安全保障への影響
米国はNATOの軍事的支柱であり、その負担はNATO全体の国防費の約70%に達します。
米軍が抜ければNATOの軍事力は一挙に低下し、特に先進兵器・核戦力・機動展開力など「アメリカ抜きでは欠けてしまう戦力」の不足が顕在化します。
その結果、ロシアがバルト三国や東欧への侵攻を企図しても「米国が守ってくれないNATO」で対抗できるのか不安が広がり、抑止力低下につながります。
経済への影響
NATO離脱は経済面にも複雑な影響を及ぼします。
短期的には米国の財政負担が軽減される可能性がありますが、欧州の安全保障不安定化は防衛費増大や軍拡競争を招き、欧州諸国の経済に重圧をかけることが予想されます。
また、最終的に欧州経済の停滞や地政学リスクの高まりは、米国経済にも波及すると考えられます。
NATO諸国との関係への影響
アメリカがNATOを離脱すれば、欧州との同盟関係は大きく損なわれます。
NATO自体が存続の危機に陥り、残された同盟国は「米国抜きで欧州防衛をどうするか」という難題に直面します。
長年盟友と頼ってきた米国に突然背かれる形となるため、「裏切り」に近い強い不信感が欧州各国に残ります。
ロシアや中国との関係への影響
最大の受益者はロシアと考えられています。プーチン政権は長年NATOを「脅威」として非難し、その弱体化・分断を戦略目標としてきました。
米国離脱はまさにロシアが描いてきたシナリオ通りであり、ロシア政府はそれを外交勝利として国内外に宣伝するでしょう。
中国もまた、米国主導の国際秩序を弱める出来事として歓迎し、アジア太平洋地域でより大胆な行動に出るかもしれません。
結論・今後の見通し
- 現状ではアメリカのNATO離脱は低い可能性だが、2024年大統領選や政治情勢の変化で議論が再燃する恐れがある
- 議会や国防機関、同盟国の強い支持が離脱を阻む要因となっており、現実的なリスクは限定的
- 国際情勢の変化により、今後も議論が続くため、各方面の動向を慎重に見守る必要がある
現在のところ、アメリカがNATOを離脱する現実的な兆候はなく、バイデン政権の下でその可能性は限りなく低いと考えられています。議会の法的防護策や、国民・与野党の圧倒的支持もあり、近い将来に米国が同盟から離れる事態は想定しにくい状況です。
市場予測サイト「Polymarket」の数字(12%)からも分かるように、専門家や市場参加者の多くは、米国のNATO離脱は「可能性はあるが、まだ長い道のり」と見ています。
ただし、2024年以降の政権交代や国際情勢の変化によっては、この安定した見通しが揺らぐ可能性も否定できません。特にトランプ氏の再選や類似の外交方針を持つ指導者の登場は、NATO離脱論を再燃させるでしょう。
そうなれば法廷闘争や憲法問題も含めた政治的混乱が生じる恐れがあり、NATO加盟国や国際社会も極度の不確実性に直面します。今後の展開としては、まず米国内でNATO離脱を巡る議論がどの程度主流化するかが注目されます。
国際的には、欧州盟友国がアメリカの動向に神経をとがらせつつ、万一の場合の「プランB」を模索する動きが続くでしょう。NATO自体も米国以外の結束強化や欧州防衛力増強などに取り組み、最悪の事態に備える可能性があります。
結論として、アメリカのNATO離脱は現時点で可能性が低いものの、政治的な不確実性が完全になくなったわけではありません。この問題は米国の外交路線と世界秩序に直結するため、今後も議論の的であり続けるでしょう。
各方面の意見を総合すれば、「当面は脱退回避」が大方の見立てですが、将来的なリスクを念頭に入れつつ慎重に動向を見守る必要がありそうです。